振り返れば、滑稽ともいわれそうなデコボコの道です。
人生には、そんなにいいことはめぐってきません。がんばれば必ず報われるかといえば、それもウソでしょう。けれども、ほんのたまにめぐってくるいいことを見逃さないために、普段から神経を張りつめて、がんばっている必要があったのです。
ほんのたまにめぐってくるいいこと…。それを私は「感動」と呼びます。
感動ほど贅沢(ぜいたく)なものはなく、感動のない人生ほど淋しいものはないと信じています。
観る人を感動させる最高の演技というのは、何回もできるものではありません。全身全霊がパッとほとばしる瞬間は、たった一度きりといっても過言ではないでしょう。その一度の演技のために、多くのものを捨てて心身を整え、出来得る準備はすべて整えておく。
映画という2時間前後の世界の中で、一生忘れられないような台詞やシーンに出逢っていただくために、俳優はこの義務を負っていかなければならないのでしょう。
大好きな作家の一人、山本周五郎は自分の作品の根底に流すテーマとして、イギリスの詩人「ロバート・ブラウニング」のこんな言葉を大切にしたといいます。
「人間の真価は、その人が死んだとき、なにを為したかではなく、彼が生きていたとき、なにを為そうとしたかで決まる」
映画俳優、デコボコの道 俳優 高倉健