ことばのちから

世界は言葉でできている。

力を尽くしているかね?

 親しんだ作家の言葉や作品が端々にまで隠れている。セリフに出てくるトーマス・マンの「魔の山」。二郎と菜穂子が身を寄せる上司宅の離れは、夏目漱石の「草枕」に登場する場所がモデル。上司宅には良寛禅師の書で知られる「天上大風」の額が掲げられている。

 特にイタリアの飛行機製作者カプローニが夢の中でたびたび二郎に声をかける言葉「力を尽くしているかね?」は、作品を貫くテーマでもある。私淑する堀田善衛(1918~98年)が随筆集「空の空なればこそ」で引用した旧約聖書の伝道の書の「凡(すべ)て汝(なんじ)の手に堪(たふ)ることは力をつくしてこれを為(な)せ」がもとになった。

 「力を尽くせ、という言葉は単純ではあるが胸に刺さった。堀越二郎堀辰雄もインテリ。海外の文献を読み、自分たちが(激動の時代の)どこにいるかよく分かっていた。どんな状況であれ職業人はその職業の中で精いっぱいやるしかない。力を尽くしても必ず見返りがあるわけではないが、やっぱり力を尽くしてやった方がいいんです」


宮崎駿監督の新作「風立ちぬ」 反戦の心、戦闘機に乗せて 「力を尽くせ」テーマに
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO57788150W3A720C1BC8001/